2021年に公開した記事「What a Golfer Really Wants ── ゴルファーが本当に望んでいる事は何か?」は、USGA(全米ゴルフ協会)が2020年11月に発表したゴルファー体験調査を紹介したもので、私が過去に書いた記事の中でも特に多くの感想をいただきました。

あれから5年が経過し。USGAの研究はその後も継続されています。
私もコロナ後には何度か渡米して実際に現地のスタッフやメンバーにインタビューをしていますが、米国と日本のゴルフ市場は明らかに異なる軌道を描いていますが、今回はこの記事を「2026年版」として全面的に再編集しました。
元の記事(USGA Green Section Record)はこちらです。
What a Golfer Really Wants(USGA, 2020)
「1,000のタッチポイント」ー「5つの体験ステージ」ー「3つの要因分類」
調査の目的
USGAは、ラウンド前・ラウンド中・ラウンド後の様々な「タッチポイント」が、ゴルファーの満足度にどう影響するかを理解するための調査を実施しました。
USGAの調査の結果では、ゴルファーがゴルフ体験を通じて接するタッチポイントは実に1,000以上あることが分かりました。重要なのは、すべてのタッチポイントが異なる重みをもっているということです。
このことを理解しないと、ゴルフ場はヒトやカネという限られた資本を、顧客が望んでいない目標に費やすことになりかねません。
ゴルファー体験の5つのステージ
調査では、ゴルファーの体験全体を予約前からプレー後までの5つのステージに分類しています。
ステージ1. 惹きつける(Attract) ── ゴルファーがコースを選択するまでのタッチポイント。イベント・料金体系・コースデザインやコンディションの情報提供を通じて「自分や同伴者に合ったコースか?」「プレーの目的に合っているか?」という参加障壁を取り除くことが求められます。ウェブサイトやSNSで多様なゴルファーを歓迎していることを示し、質問しやすい導線を用意することが重要です。
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ステージ2. 到着する(Arrive) ── コース到着から1番ティーまで。当日の体験を演出する最初の機会です。入場路や駐車場から見える景観・設備の質、チェックインからティーオフまでの流れの設計、腕前に関係なく質の高いホスピタリティを提供するスタッフ対応。当時の調査でもオートチェックインなどのテクノロジーが利便性の重要な要素とされ、料金やコース方針を伝えるサイネージへの期待も確認されました。
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ステージ3. プレーする(Play) ── 最も重要なステージ。プレーペースの管理はもちろん、マーシャルや売店スタッフの訓練、ショットの多様性を生む戦略的なコースデザイン、フェアウェイ・ラフ・バンカーの品質。ティーイングエリアの選択肢やホールの位置が明確に示されている点が特に注目されました。
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ステージ4. 離れる(Depart) ── 最終ホールからコースを出るまで。運営者にとって非常にチャンスのあるエリアです。ラウンド後の交流を促す居心地の良いスペースと社交的な雰囲気は追加消費につながり、従業員が次回のプレー予定やプロショップの商品を案内することでアップセルが成立します。
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ステージ5. 継続する(Sustain) ── コースを離れてから次のプレーまで。ウェブサイト、メール・SMS、SNSなどを通じて戦略的なタイミングでメッセージを発信することがリピートに重要な役割を果たします。期待に応えられなかった点をすぐに改善できる機会でもあります。
3つの要因分類 ── 何が満足を生み、何が不満を生むか
調査対象全コースに共通する77のタッチポイントを評価したところ、平均満足度は5点満点中3.64点。非対称性分析により、タッチポイントは3つに分類されました。
満足要因(Satisfiers) ── 評価が低くても不満にはつながらないが、高評価なら競合との差別化を生むタッチポイント。
- コース全体の挑戦度
- フェアウェイの広さ
- バンカーの数
- OB・ウォーターハザード・修理地などの表示
- ティーイングエリアの数と位置
- グリーンのコンディション
- ホールの位置(難易度)
- グリーンから次のティーまでの移動時間
- スターターのタイムマネジメント
- コースの清潔度
- コースと練習場のコンディションの一貫性
- 自然の野生生物の存在 など
パフォーマンス要因(Hybrids) ── 評価次第で満足と不満の両方に影響するタッチポイント。
- 歩きやすいコースデザイン
- コース全長
- 様々なレベルのゴルファーに公平なデザイン
- フェアウェイのコンディション
- ラフの密度と長さ
- 距離表示の分かりやすさ
- 技術レベルに対応する複数のティー
- グリーン上のスムースなボールの転がり
- グリーンの起伏・傾斜・サイズ
- ピンポジションの案内(ロケーションシート、旗の色など)
- ティータイムの間隔
- 組人数の制限 など
不満要因(Dissatisfiers) ── 満足度を引き上げる力は小さいが、低評価だと全体の満足度を大きく毀損するタッチポイント。ここのスコアが悪いと、他がどれだけ優れていても全体満足度が低下します。
- コース売店を含む給水施設とトイレ
- 緊急時の待避所や連絡手段
- プレーペースを守れないゴルファーへの是正措置
- ローカルルールによる娯楽性とスピードの向上
- ゴルフカート(カート道路含む)の質や機能
- 樹木・池などの整備
- バンカーのクオリティ
- ドロップエリアの識別
- ティーイングエリアのメンテナンスや平坦性 など
この調査から得られる結論は非常にシンプルです。
ゴルフコースはまず不満要因(フラストレーション)を排除し、その上で満足要因に投資する。 そして5つのステージの中で見落とされがちな最重要領域は、ゴルファーが最終グリーンを去った後にある、ということでした。
この5年でUSGAの研究はどう進化したか

2021年の記事はここで終わっていましたが、USGAのゴルファー体験研究はその後も継続され、実務に使いやすい形へと進化しています。
① 1,000 → 77 → 28:満足度ドライバーの絞り込み
その後の分析で、1,000超のタッチポイントは28の主要な満足度項目にまで絞り込まれ、それらは「コースデザイン」「コースコンディション」「プレーペース」「プレーヤーサポート」「従業員との交流」の5つのカテゴリーに整理されました。あわせてUSGAは、提供する体験に基づいてゴルフ場そのものを分類する「コースタイポロジー」も開発し、コースのタイプによって満足度に効くタッチポイントが異なることを統計的に示しています。
参考:A New Way to Classify Golf Courses to Improve Golfer Satisfaction(USGA, 2021)
実際の実務では1,000の接点すべてを管理することは到底不可能ですが、28のドライバー×5カテゴリーなら十分に部門長レベルでハンドリング可能です。
② 実は「平均的なゴルファー」というのは存在しない ── 9つのアーキタイプ
2022年に公表された研究では、126人への定性調査と全米20,001人への定量調査を通じて、ゴルファーを技量・プレー頻度・年齢などで9つの類型に分類しました。
- カジュアル:技量は発展途上で、ゲームに比較的新しく入ってきた層。年12ラウンド以上プレーし、年齢は問わない
- スポーティ/シーズンド:中程度の技量で年12〜52ラウンド。50歳未満が「スポーティ」(他のスポーツからゴルフに入った都市型・独身傾向)、50歳以上が「シーズンド」
- アビッド:中程度の技量で年52ラウンド超をプレーする「週末の戦士」。全体の約16%
- プレーヤー/ベテラン:高い技量を持つ層。50歳未満の「プレーヤー」は約3%と少数で、50歳以上の「ベテラン」は約19%を占め、ゲームの規範とクラシックコースの完全性を守りたいという強い意識を持つ
参考:Understanding the Golfers at Your Course(USGA, 2022)
重要なのは、類型ごとに重視するタッチポイントが異なるという点です。「ゴルファーの満足度を上げる」という漠然とした目標ではなく、「うちのコースの主要顧客はどの類型で、その層に効く要因はどれか」という問いに変換することが重要です。なおUSGAはこの調査を2023年にも継続しており、6万人を超える米国ゴルファーから回答を集めています。
市場環境の変化 ─米国と日本の明暗

タッチポイントの議論を現在の文脈に置くために、この5年の市場の動きを押さえておきましょう。
米国はコロナ特需が「定着」した
NGF(全米ゴルフ財団)の最新レポート(Graffis Report)によると、2025年の米国のオンコース参加人口は2,900万人超で8年連続の増加。オフコース(シミュレーター、ゴルフエンターテインメント施設等)を含む総参加人口は4,810万人と過去最高を記録しました。年間ラウンド数は過去5年間で4度目の記録更新。しかも2000年代初頭の「タイガー・ブーム」期より約2,000コース少ない供給でこれを達成しています。
特筆すべきは構造の変化です。
- 女性のオンコース参加は800万人超(2019年比+46%)で過去最高。女性比率28%、非白人比率26%と参加層の多様化が進む
- 芝の上でゴルフを始めた初心者の約3分の2がオフコース経験を入口にしている
- ハイブリッドワークの定着が平日ゴルフを押し上げ、予約テクノロジーがティーシートの稼働を効率化
2020年に「ゴルファーが本当に望んでいる事」を問うた米国は、不満要因を取り除きながらコロナ禍で獲得した新しい参加層を迎え入れ、特需を定着させたと言えます。
日本は回復から踊り場へ
一方の日本は、レジャー白書2024(2023年データ)によるとコース参加人口530万人(前年比+3.9%)、ゴルフ場市場規模9,390億円(同+3.8%)と、こちらもコロナバブルを経て回復基調にありましたが、レジャー白書2025(2024年データ)ではコース参加人口480万人(前年比9.4%減)、市場規模9,240億円(同1.6%減)と減少に転じ、練習場参加人口も450万人と500万人を割り込みました。物価高による余暇支出の減少や、猛暑による夏季利用の減少が背景として指摘されていますが、実際は米国の成功をよそに、コロナ禍に取り込んだ新規ゴルファーを定着させることに失敗したという見方もできます。
他方で、帝国データバンクの調査(事業者売上高ベース)では、2024年度のゴルフ場市場規模は8,100億円(前年度比+3.0%)と4年連続の増加しており、インフレによる年会費やプレー料金の値上げ、インバウンドゴルファーの回復、リピーター化が寄与したと分析されています。
※レジャー白書(消費者調査ベース)と帝国データバンク(事業者売上ベース)は調査手法が異なるため数値は単純比較できませんが、両者を併せて読むと「参加人口は頭打ち〜減少局面に入りつつ、単価上昇で売上は維持・増加している」という構図が浮かびます。これは私の解釈ですが、値上げ余地に支えられた成長は永続しません。この単価を正当化し続けるためにこそ、「顧客体験のどこに投資すべきか」というこの調査のテーマが、2021年当時よりも切実になっていると考えており、実際に価値なき値上げを実行したコースの苦戦ぶりも明らかになってきています。
タッチポイントのデジタル化
元記事で「オートチェックインシステム」と一言だけ触れたテクノロジーは、この5年で様変わりしました。日本でも、PGMグループは2022年からスマートチェックインを全国展開し、会員アプリによる24時間予約、AIによるダイナミックプライシング、GPSカートナビとペース管理など、5つのステージのタッチポイントの主戦場はデジタルチャネルに置き換わりつつあります。
ここで注意したいのは、デジタル化の目的はタッチポイントを「減らす」のではなく「置き換える」ということです。スマートチェックインはフロントでの接客というタッチポイントを、画面のUI・動線のサイネージ・トラブル時のスタッフ対応という別のタッチポイント群に置き換えます。省人化の目的だけで導入すると、結果的に不満要因を自ら作り込むことになりかねません。
日本のゴルフ場経営への示唆【2026年版の筆者の考察】

2021年版の考察では私は3点を挙げました。
①5つのステージで自社を分析する(特にステージ4)、②スタッフ教育への投資、③樹木の手入れの重要性。これらは今も有効ですが、5年分の情報を踏まえて、2026年版では以下の5点に更新します。
1. まず「フラストレーター」を潰す ── 投資効率の観点から
給水施設、トイレ、緊急時の連絡手段、プレーペースを守れない組への是正措置、ペース向上のデザイン変更(ティーの新設、戦略上不要なバンカーの削除、プレー線に侵入した樹木伐採など)、ティーイングエリアの平坦性。不満要因の多くは、大規模コース改修のような大型投資に比べれば小さな費用で改善できます。
特に猛暑が常態化した日本では、給水・避難・熱中症対応というタッチポイントの重みが2020年の米国調査時点より増していると考えるのが自然です(これは調査データではなく私の推測ですが、夏季の入場者減少という白書のデータとも整合します)。実際にクーラーカートや、乗り入れサービスの導入コースで、夏季の集客は堅調というデータもあります。大型投資の議論の前に、まず不満要因の総点検をお勧めします。
2. 自コースの「分類構成」を把握する
この研究が示したのは、平均的なゴルファー像に向けた改善では誰の満足度も向上しない、ということです。会員名簿や来場データから、自コースの顧客がどの類型(腕前×頻度×年齢)に偏っているかを把握し、その層に効く施策へ投資を集中する。会員制クラブで「ベテラン」型(規範とコースの完全性を重視する層)が中心なら、流行のDXやカジュアル化施策がかえって満足度を下げる可能性すらあります。
隣のゴルフコースで有効な施策は、自コースにも有効な施策になり得る可能性は低いのです。
3. ステージ4の「離れる」は依然として日本最大の伸びしろ
風呂と精算を済ませたら駐車場へ直行、という動線のままのコースはまだ多いはずです。ラウンド後に滞在したくなる空間とサービス、次回予約・物販・交流を促すスタッフの一言。米国調査が「最重要はゴルファーが最終グリーンを去った後」と結論づけてから5年、ここに本格的に手を付けた日本のコースはまだ少数派だと感じています(私の現場感覚です)。だからこそ差別化の余地が大きい領域だと感じています。
4. オフコースを「入口」として設計する
米国では芝デビューする初心者の約3分の2がシミュレーターや練習施設を入口にしています。日本でもインドアゴルフ施設は増加しており、ステージ1(惹きつける)の起点がコースの外に移りつつあります。インドア施設・練習場との送客連携、初心者を明示的に歓迎するメッセージ、デビュー組向けのティー設定とローカルルール。「うちのコースに来る前」のタッチポイントを設計できるコースが、縮小する国内参加人口の中で新規層を獲得します。
これは地域や連盟などの協力が得られると進めやすいと感じています。
5. DX導入は「タッチポイントの再設計」として行う
スマートチェックイン、アプリ予約、ダイナミックプライシングの導入を検討する際は、5つのステージのどのタッチポイントを置き換え、その余剰によって何が新たに生まれるのかを検討してから進めるべきです。省人化の効果額だけで判断すると、フロントの挨拶という「ディライター」を失い、操作に迷うセルフレジという「フラストレーター」を得る、という最悪の交換になり得ます。
おわりに
5年前にこの調査を紹介したとき、私は「データなしに改善を進めれば、顧客が望んでいないことに資本を費やすことになる」という一節に最も共感しました。その後のUSGAの研究の進化によって新規ゴルファーが増え続ける米国市場と、インフレ対策としての単価上昇に支えられる日本市場の現状を見るにつけ、この言葉の重みは増すばかりです。
値上げが許容されている今こそ、「顧客にとって本当に重要なタッチポイント」に再投資できるかが、5年後・10年後のコースの競争力を決めると考えています。今後もこうしたスタディを通じて、日本のゴルフ産業の発展に有効な情報を発信していきたいと思います。
出典・参考資料
- USGA Green Section Record “What a Golfer Really Wants”(2020)
- USGA Green Section Record “A New Way to Classify Golf Courses to Improve Golfer Satisfaction”(2021)
- USGA Green Section Record “Understanding the Golfers at Your Course”(2022)
- USGA Golfer Experience Fundamental Research / Sporting Insights調査(2023)
- NGF “Golf Industry Facts” / Graffis Report(2026年発表・2025年データ)
- 公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2024」「レジャー白書2025」
- 帝国データバンク「ゴルフ場業界」動向調査(2024年度)

