久しぶりに気合を入れて読みました。
ヤフーCSO、SFC教授、そして文科省や経産省などの国家戦略にも関わる安宅和人さん渾身の著書は、人工知能時代の教育と日本の再生について書かれた「シン・ニホン」です。
膨大なデータを示しながら、かなり網羅的に書かれているのですが、これからの不確実な時代に我々がどう生きるべきか?という問いに一つの解を示した本だと思います。
時代の全体像と変化の本質
2020年を迎える今年、世界の企業価値ランキングの上位はマイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグルといったいわゆるインターネット企業が占めています。ほんの15年20年前までは銀行やメーカーなどが占めていたことを考えるとインターネット産業というのがここ10年あまりの間に大きく市場を伸ばしたと言えます。
マッキンゼーで行われた調査によると事業の成長を決める要因の70%は市場の選定であると言われています。
国やインドなどの新興国が伸びている理由は情報産業の潮流にのったこと。そして日本のGDPがここ20年停滞している理由は、この新たな市場で産業や人材が輩出できていない事が理由だと分かります。
これから求められる人材とスキル
その原因の一つに教育があります。
現代の日本の教育では知識を記憶し、それを組み合わせて(あるいは計算して)出力するという能力を育む教育がされています。
しかしこれは機械や人工知能がもっとも得意とする領域であり、機械に代替可能な能力とも言えます。
例えばマニュアルを覚えてその通りに動くというようなスキルは、大量生産大量消費時代に求められるスキルであり、現代のように0から1を生み出すことが価値になる時代において、そうした教育は意味を持たないものになっています。
このような時代においては、人間特有の感性によって疑問をもつことであったり、ユーザーのニーズを察する「妄想力」が価値になると考えられます。それはすなわち「夢を形にする力」であり、未来を妄想できる「変わった人」「やばい人」を作る教育です。
日本の髪型や服装を揃え、前に習えや組体操をするような教育ではこうした人材が育たないことを危惧している一方で、ドラえもんや攻殻機動隊などの夢や妄想に長けたカルチャーが存在する日本には勝機があるとも筆者は述べています。
これから求めらる人材要件である「夢を形にする」には、課題(夢)× 技術(テクノロジー) × デザイン(アート)が大切であるとするならば、それはつまり「思考する力」「ダイバーシティを結集する力」「美醜の感性」が重要であると私は解釈しました。
いずれも人間らしい能力であり、AIに代替不可能なことだからです。
日本でこうした教育ができない理由に、専門職人材の社会的な価値の低さ、教育への投資の少なさがあります。
日本は研究者(博士号)の数が他の先進国あるいは新興国に比べて圧倒的に少なく、その理由は高度教育にかかる費用の問題、そして企業が有能な思考者(Thinker)を活用できないことが原因であると考えられます。
リソースの分配
日本は残念ながら未来に投資できない国です。
言い換えれば若者に投資できない国「日本」ということです。
実際に日本でもっとも構成比を締めるのは社会保障給付費(医療、年金、介護)は120兆円と世界ダントツのトップであるのに対して、化学技術予算、教育予算は低くGDP比で4.9%とOECD28カ国の中で24番目という位置付けです。
国全体を家族とした場合に、お爺さんお婆さんはおかず付きのご飯を食べ、働くお父さんお母さんがほんの少しのお小遣いで暮らし、子供達にはメザシ一つも与えられないというイメージです。
実際に2035年には日本人の単身を除く世帯の貯蓄0の家庭は50%に上ると予想されていて、日本人は世代が下がるごとに貧困化している事がわかります。(同データは2017年で31%、発展途上期の1963年でも22%)
最近になってようやく日本の年功序列制度に異を唱える人も増えてきましたが、実際に大企業でも働かないおじさん問題は社会現象になっています。要するに、年長者を若者が支えるというのは、年金に限った話ではなく、日本社会全体の問題なのです。
本書にはこうした問題に対する具体的かつ定量的な解決策が記されているので興味のある人は買って読んでいただくと良いと思います。
私たちがでできる行動
この本を読んで思うことは、
1.)日本は経済的に見ると先進国で一人負け状態であり、構造的に変わらなくていけない局面に来ている。
2.)その中でも特に教育変革の必要性を感じる
3.)日本全体ではもちろん、自治体、企業、家庭のレベルでも、もっと若者を応援しなくてはいけない。
4.)自分も年を重ねていく中で、若者の負担を増やす側になるのか、それとも若者を育て応援する側になるのか、自分自身もさらに勉強が必要だと思った。
ということです。
特に3.)4.)はすぐにでも出来ることであり、自分に何ができるのか、再考する機会を与えてくれた一冊でした。